共通の拡張

共通の拡張とは、規格としては定義されていないけれども多くの処理系で採用されている仕様のことです。共通の拡張に依存するプログラムは、厳密には規格に準拠していないプログラムとなります。その結果、移植性が低下することも考えられます。共通の拡張を把握しておくことは、移植性の高いプログラムを書く上で重要でしょう。

共通の拡張を、C言語の標準規格であるJIS X 3010：2003(ISO/IEC 9899：1999)の「附属書J 可搬性」を参考に列挙してみましょう。

• 処理系によっては、ホスト環境で、main関数は3番目の引数 char *envp[]を受け取る。この引数は、ナル終端された、charへのポインタの配列を指す。配列の要素は、今回のプログラム実行に関する環境についての情報を提供する文字列。
• ソース基本文字集合の一部ではないような、アンダースコア、文字、数字以外の文字(例えば、ドル記号や国固有の文字集合の文字)が識別子で使用可能。
• 外部結合を持っていてもいなくても、識別子の全ての文字に意味がある。
• 関数の識別子またはその宣言がキーワードexternを含むオブジェクトの識別子がファイルスコープを持つ。
• 文字列リテラルが変更可能。このような場合、同じ文字列リテラルは別のオブジェクトを意味する。
• __int128やdouble doubleのような算術型やそれらの適切な変換型が追加で定義される。追加の浮動小数点型はlong doubleよりも広い範囲と精度を持つかもしれないし、他の浮動小数点型の式の評価のために使われるかもしれない。また、float_tやdouble_tを定義するために使われるかもしれない。
• voidやオブジェクトへのポインタは、関数へのポインタにキャスト可能。また、関数へのポインタが、voidやオブジェクトへのポインタにキャスト可能。
• ビットフィールドが、_Bool、unsigned int、signed int以外の型で宣言可能。
• fortran関数指定子が関数宣言で使用可能。fortranキーワードにより、プログラミング言語FORTRANに適した呼び出しの生成や外部名の生成がなされる。
• asmキーワードが使用可能。asmキーワードは、アセンブリ言語を記述するために使用される。ほとんどの場合の形式は、asm(文字列リテラル); 。
• externキーワードの有無にかかわらず、オブジェクトの識別子のために複数の外部定義が存在可能。その時、定義が不一致か、あるいは複数の初期化がなされたら、その動作は未定義。
• 翻訳や実行環境に関する、下線で始まらないマクロ名があらかじめ定義される。
• 浮動小数点状態フラグが、atexit関数によって登録された関数の全ての呼び出し後、通常の終了で設定される場合、処理系はいくつかの事実を示す診断をstderrストリームに書き込む。
• シグナルハンドラを、シグナル番号の他に特別な実引数を以て呼び出すことが可能。
• ファイルからストリームへのマッピング追加がサポートされる。
• fopen関数のmode実引数に追加のファイルオープンモードが指定可能。
• テキストストリームに対してungetc関数またはungetwc関数の呼び出しが成功するごとにファイル位置表示子が(0であった場合を除いて)減らされる。
• <complex.h>と<math.h>で宣言された関数は、errno設定や浮動小数点例外の代わりに、あるいはそれらに加えて、エラーを報告するためにSIGFPEを生成する。